雪乃小説館

不定期で更新します!現在は白と黒の子守唄を更新してます。

白と黒の子守唄(57話)

高校3年の春。


周りのみんなは卒業の就職や
大学進学へと進路を決めだしていた。


私は何も考えてなかった。


ある日の放課後、
修一さんが私に声をかけてきた。


「皐月さんのお見舞い行ってますか?
行ってなければ今から一緒に行きませんか?
皐月さんには今日行く事は伝えてあります。」


たしかに気になってはいたけど、
修一さんと行くのか…


「ごめんなさい、私はまた改めて
行こうと思います。」


今度勇気出して見に行ってみよう。


そう思ったの。


だけど修一さんが引かなかった。


「今日桐島さんにも着いて来て貰いたいんです。
一緒に来て頂けませんか?」


私実は修一さんの鋭い目つき苦手…


横で見てる分にいいけども、
正面で見るとやっぱり怖い…


私は断りきれず、着いて行く事にした。


病室に着くと、さっちゃんは笑顔で迎えてくれた。


半年くらい顔を見てなかったけど
変わって無くて嬉しかった。


修一さんはさっちゃんに横に立った。


「皐月さん。私は今でも貴方の事を愛しています。」


修一さん…


それが聞けて安心した。


「だが、しかし、貴方の望むのであれば
私は桐島さんとお付き合いしようと
考えています。」


え?なんでです?


さっちゃん笑顔でうんうんと頷いていた。


「待ってください修一さん!
私はその話は断ったはずです!
修一さんがさっちゃんを好きならば
さっちゃんのそばに居てあげて下さい!」


私は思わず声を出した。


我慢せずにはいられない。


修一さんは後ろにいた私に
振り返った。


どことなく、悲しそうな目をしていた。


「私は皐月さんに振られた身です。
もう皐月さんのおそばに居られないのです。」


振られた?


私は思わずさっちゃんに駆け寄り、
どういう事なの?と聞いた。


「昨年の年末に、私の病状はさらに悪化していると
先生から聞きましたの。
まだ寿命は伝えられてないけれども、
もう時間の問題だと思うの。
修一さんを悲しませるくらいならと、
私から別れてほしいとお願いしました。」


さっちゃんは下を向きながら話した。


私と修一さんが付き合う?


そんなこと考えた事もなかった。


2年ほど前なら嬉しかったけど、
今はそんな気持ちは全くなく、
まるでさっちゃんが死ぬ前の
準備をしているように聞こえて
嫌だった。


私はそのまま修一さんと病室を後にした。


待合席で私は座り込んだ。


修一さんはコーヒーを買って
私に手渡した。


「修一さん、ごめんなさい。
やはり私は貴方とお付き合いできません。
どうかさっちゃんのそばに居てあげて下さい。」


修一さんはコーヒーを1口飲むと、
上を見上げながら言った。


「またそれですか…
私は振られた身だと言ってるでしょう…
そろそろ私が諦められるように
協力して下さりませんか?」


そんなこと言われても…


心の中はきっとさっちゃんでいっぱいなんだと思う。


そんな修一さんを愛するなんて…できない。


でも…


そうしないとさっちゃんの事悲しませちゃうのかな…


「お付き合いする話はお受けします。
でも、修一さんを好きになれるかは
分かりません。」


修一さんは笑顔で私の方を向いた。


「ありがとうございます。
私も桐島さんの事、皐月さんからは
色々お伺いしてますが、
自分の目で見ていこうと思います。」


さっちゃん、ごめんね…


私と修一さんはこうして付き合う事になったの。